はじめに
2026年4月に施行された、中規模非住宅建築物(延床面積300〜2,000㎡)の省エネ基準引き上げ。施行から3ヶ月半が経ち、実際の設計現場では何が起きているのでしょうか。
「新基準、実際どのくらいの物件がクリアできているのか」
「確認申請や省エネ適判の審査、今も混雑しているのか」
こうした疑問に対して、国土交通省の調査データや業界メディアの最新レポートをもとに、「今、実際に何が起きているか」を数字で確認していきます。あわせて、今すぐ確認しておきたい3つのポイントもまとめました。
改めて:2026年4月の改正内容

対象は延床面積300㎡以上2,000㎡未満の中規模非住宅建築物です。用途に応じて、省エネ基準(BEI)が15〜25%引き上げられました。
| 用途 | 旧基準(〜2026年3月) | 新基準(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 工場等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.75 |
| 事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.80 |
| 病院等・飲食店等・集会所等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.85 |
適用は2026年4月1日以降に省エネ適判を申請する案件が対象です。手続きの流れ自体に変更はありませんが、基準値そのものが厳しくなったため、従来の標準仕様のままでは適合しないケースが増えています。
出典:ビューローベリタス「中規模非住宅建築物に係る省エネ基準の引き上げについて」
【最新データ①】用途別の適合率——実は3〜5割が新基準に届いていない

国土交通省が公表した資料をもとに、総合資格naviが整理した用途別のBEI適合率データによると、新基準に対する現状の適合率は次の通りです。
| 用途 | 新基準 | 現状の適合率 |
|---|---|---|
| 工場等 | BEI ≦ 0.75 | 約69.4% |
| 事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等 | BEI ≦ 0.80 | 6〜8割程度 |
| 病院等・集会所等・飲食店等 | BEI ≦ 0.85 | 5〜6割程度 |
出典:総合資格navi「2026年4月施行 中規模非住宅建築物の省エネ基準引き上げについて」(国土交通省資料をもとに構成)
つまり、工場等でも約3割、事務所・学校等でも2〜4割、病院・飲食店・集会所等では実に4〜5割の建物が、新基準ではそのまま適合しない可能性があるということです。
特に病院や飲食店は、照明・給湯の負荷が高くBEIが上がりやすい用途です。「以前と同じ仕様で問題なかった」という感覚のまま設計を進めると、確認申請の直前でBEI超過が発覚するリスクが今まさに高まっています。
記事②「省エネ計算でBEIが基準値を超えてしまった!原因と7つの改善対策【実務解説】」でも解説していますが、BEI超過が発覚した場合、まず試すべきはコストゼロでできる入力の見直しです。
【最新データ②】確認申請・省エネ適判の審査は今どうなっている?

国土交通省が2026年4月1日〜10日に指定確認検査機関等を対象に実施したアンケート調査によると、確認申請の審査期間が30日を超えている検査機関は42機関にのぼり、回答した機関の半数以上が30日超の審査期間を要しているという結果が出ています。
一方で、改善の兆しも見られます。審査期間が最大となった時期を聞いたところ、
- 「2025年4〜6月」(法改正直後の混雑ピーク):28機関
- 「2026年1〜3月」(直近):15機関
と、ピーク時に比べて審査の遅延を訴える機関は減少傾向にあります。ただし、依然として半数以上の機関で30日超の審査期間がかかっており、混雑は解消しきっていないのが実態です。
遅延の主な理由としては「不備の多い申請への指摘に時間を要した」という回答が多く、申請内容の手戻りの多さが審査業務のボトルネックになっていることがうかがえます。
出典:Housing Tribune Online「法改正から1年 なお遅れが続く建築確認審査」(国土交通省アンケート調査結果より)
現場からはこんな声も

同レポートでは、住宅事業者・設計者からの声も紹介されています。
- 「審査が遅れて着工に間に合わない。確認と性能評価の図面整合性を合わせるのが大変」(設計者)
- 「確認申請許可までの期間が以前の倍近くになり、着工予定がずれ、基礎業者の工程調整が多発している」(工務店)
- 「確認申請機関が人手不足で申請スケジュールがどんどん遅れている」(設計者)
- 「省エネ図作成者がいない」(設計者)
審査機関側の体制強化にも限界があり、申請内容の不備・手戻りをこちら側で減らすことが、遅延を避ける最も現実的な手段になっています。
つまり、今設計現場で何が起きているのか

2つの最新データを合わせると、次のような状況が見えてきます。
- 新基準に対して、物件の3〜5割は現状のままでは適合しない可能性がある(用途による)
- 審査は改善傾向にあるとはいえ、半数以上の機関で30日超がかかっており、依然混雑している
- 遅延の主因は「申請内容の不備・手戻り」であり、BEI未達のまま申請すればさらに審査が長期化するリスクが高い
つまり、「基準に届いていない物件を、混雑した審査に不備ありで提出してしまう」という、最も避けたい事態が今、現場で起きやすい状況にあるということです。
今すぐ確認すべき3つのポイント
ポイント① 進行中の物件のBEIを、今すぐ確認する

まだ計算していない物件があれば、新基準(用途別BEI 0.75〜0.85)に対して現状どの位置にあるかを早急に確認しましょう。上記の適合率データを踏まえると、「大丈夫だろう」という感覚だけでは判断できない状況です。
ポイント② 図面と計算書の整合性を事前にチェックする

審査遅延の主因は「申請内容の不備」です。照明器具の位置図の不足や、確認申請の図面と省エネ計算の内容にズレがないかを、提出前に一度確認しておくだけで、手戻りによる遅延を避けられます。
ポイント③ 審査混雑を前提に、余裕を持ったスケジュールを組む

改善傾向にあるとはいえ、30日超の審査期間は今も半数以上の機関で発生しています。着工予定から逆算し、省エネ適判・確認申請にかかる期間を多めに見積もっておくことが、スケジュール遅延を防ぐ最善策です。
BEIが基準値に届いていない場合は

BEIが基準値を超えてしまった場合でも、設備の交換や仕様変更の前に、コストゼロで試せる対策があります。詳しくは以下の記事で解説しています。

まとめ:楽観できる状況ではない、今が確認のタイミング

2026年4月の基準引き上げから3ヶ月半が経ち、見えてきたのは「思っていたより多くの物件が新基準に届いていない」という現実と、「審査は改善傾向にあるが、依然混雑している」という実態です。
- 用途によっては4〜5割の物件が新基準未達の可能性
- 審査期間30日超の機関が半数以上(改善傾向だが依然混雑)
- 遅延の主因は申請内容の不備・手戻り
このような状況だからこそ、進行中の物件のBEIを早めに確認し、不備のない計算書・図面で申請することが、遅延リスクを避ける最も確実な方法です。
「今抱えている物件が新基準に対応できているか不安」という方は、早めに一度確認してみることをおすすめします。


