はじめに
省エネ計算を進めてみたら、BEIが1.0を超えてしまった——。
確認申請の締め切りが迫っているのに、どう対処すればいいかわからない。設備を変えるにもコストがかかるし、施主への説明もしなければならない。そんな焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、BEIが基準値を超えてしまった原因を整理し、実務で実際に使える7つの改善対策を具体的に解説します。
BEIとは?まず基本をおさらい

BEI(Building Energy Index)は、建物の省エネ性能を示す指標です。
BEI = 設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量
- BEI ≦ 1.0:省エネ基準に適合(確認申請が通る)
- BEI > 1.0:省エネ基準に不適合(確認申請が通らない)
2025年4月から原則すべての新築建築物に省エネ基準適合が義務付けられたため、BEIの値は確認申請を進める上で避けて通れない数値となっています。
⚠️ 2026年4月からBEI基準が引き上げられました

2026年4月1日から、延床面積300㎡以上2,000㎡未満の中規模非住宅建築物の省エネ基準が引き上げられました。
| 用途 | 旧基準(〜2026年3月) | 新基準(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 工場・倉庫等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.75 |
| 事務所・学校・ホテル・百貨店等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.80 |
| 病院・飲食店・集会所等 | BEI ≦ 1.00 | BEI ≦ 0.85 |
出典:国土交通省・中規模非住宅建築物に係る省エネ基準の引き上げについて
以前の計算でギリギリ適合していた建物も、今年4月以降の申請では不適合になるケースが出てきています。今回の内容は、特に中規模非住宅の設計を担当している方にとって急務の課題です。
BEIが基準値を超える主な原因

原因① 設計の後半で省エネ計算を始めた
実施設計が終わってから省エネ計算をすると、BEIが超過していても設計変更が難しい状態になっています。「計算は最後にすればいい」という認識が、最も多い失敗パターンです。
原因② コスト削減で断熱仕様を落とした
予算調整の過程で断熱材の厚みを薄くしたり、窓のグレードを下げたりすると、UA値(外皮平均熱貫流率)が悪化してBEIに影響します。
原因③ 用途の特性を見落とした
照明・給湯の負荷が高い用途(飲食店・病院・老人ホームなど)は、標準的なオフィスに比べてBEIが上がりやすい構造になっています。用途ごとの特性を把握せずに設計を進めると、後から大幅な対策が必要になります。
原因④ 設備の実性能を計算に反映していない
モデル建物法では、実際に採用した設備の性能値を入力しなければ「規定値(デフォルト値)」が適用されます。規定値は安全側(厳しめ)に設定されているため、実際の性能が高くても計算結果に反映されません。
原因⑤ 計算対象の室の設定が不適切
モデル建物法では「計算対象外」にできる室があります(低温室・実験室・サーバー室の冗長設備など)。この設定を見落とすと、余計な負荷が計算に乗ってしまいます。
BEI改善のための7つの対策

対策① 設備の実性能値を入力する(まず最初にやること)

規定値のままになっている設備について、カタログに記載されている実際の定格消費電力・効率を入力します。特に空調・換気・給湯は規定値と実性能の乖離が大きいことが多く、入力するだけで大幅な改善が期待できます。
ポイント: まずここから試してください。コスト追加ゼロで改善できる可能性があります。
対策② 換気設備の入力を最適化する

換気設備はBEI全体に占める比率は約4%と小さいですが、設定次第で大きく改善できます。
有効な補正・設定:
| 手法 | 条件 | 効果 |
|---|---|---|
| 高効率モーター採用評価 | 三相電源ファン・定格消費電力0.75kW以上 | 消費電力の削減評価 |
| 単相ファンの補正 | 0.75倍の係数を適用 | BEI改善 |
| 天井高さ補正 | 天井高6mの室の場合:2.7÷6.0=0.45を乗じる | 大幅改善の可能性 |
| 比消費電力の入力 | 消費電力(W)÷設計風量(㎥/h)で算出 | 0.2以下で効果大 |
対策③ 照明設備を精査する
日本照明工業会の消費電力参考値を活用することで、汎用的なLED器具でも実際の省エネ効果を反映できます。
- 「多灯分散照明+調光制御」の組み合わせ:約2ポイントのBEI削減効果
- 主たる居室の照明だけが計算対象(トイレ・廊下は省略可)
省略できる理由: モデル建物法(小規模版)では「主たる室用途に設置される照明設備」のみが評価対象となっています。トイレや廊下は主たる用途室ではないため、省略が認められています。省略した場合、その室の床面積も計算対象から除外されます。
対策④ 計算対象外の室・設備を再確認する

以下の室・設備は、条件を満たせば計算対象外にできます。
| 室・設備 | 対象外にできる理由 |
|---|---|
| 低温室・冷凍倉庫 | 冷凍・冷蔵を目的とした特殊温度帯の室は、一般建築の省エネ基準(室内環境を快適に保つための基準)とは目的が異なるため |
| 実験室・クリーンルーム | 研究・製造特有の高負荷設備は通常の建物用途では発生しない負荷であり、標準的な省エネ評価の対象外とされているため |
| サーバー室の冗長空調設備 | バックアップ目的で設置されている設備は通常運転時には稼働しないため、実際のエネルギー消費に含めるのが不適切とされているため |
| 電気室・機械室の換気設備 | 設備機器の冷却を目的とした換気であり、居室の環境維持を目的とする省エネ評価の枠組みには馴染まないため |
これらが計算に混入していると、実際には使っていないエネルギーが「使う前提」で計算されてしまい、BEIが実態より悪く算出されます。 設計図面と計算書を照合して、不要な室・設備が含まれていないか確認しましょう。
対策⑤ 【最終手段】標準入力法への切り替えを検討する

モデル建物法は計算が「安全側」になるため、標準入力法に切り替えることでBEIが改善する可能性があります。ただし、安易に切り替えることはおすすめしません。
なぜ安易な切り替えを避けるべきか:
| 項目 | モデル建物法 | 標準入力法 |
|---|---|---|
| 計算費用 | 基準 | 約1.5〜2倍以上 |
| 計算期間 | 通常2週間程度 | 4週間以上 |
| 適判審査費用・期間 | 基準 | 同様に倍以上 |
| 省エネ適判のみの目的 | ◎ 推奨 | △ コスト・期間に見合わない |
| ZEB・BELS高評価取得 | △ 困難 | ◎ 最初から標準入力で進める |
最初からどちらの方法で計算を始めるかを比較しても、標準入力法はトータルで倍以上の時間とコストがかかります。省エネ適判を通すことだけが目的であれば、モデル建物法でクリアさせる方が合理的です。 逆にZEBや高いBELS評価を目指す場合は、最初から標準入力法で進める方が効率的です。
さらにBEIが必ず改善される保証もないため、「モデル建物法で不適合→標準入力法に切り替え」は費用と時間を二重に失うリスクがあります。
本質的な解決策は「事前計算」にあります。
BEI超過が発覚してから対策を考えるのではなく、基本設計段階で概算BEIを確認しておけば、標準入力法への切り替えも含めた判断を余裕をもってできます。確認申請ギリギリで発覚するから「切り替えるしかない」という状況が生まれます。
標準入力法を選ぶのが合理的なのは、対策①〜④をすべて試しても適合できず、かつスケジュールと費用に余裕がある場合に限ります。

対策⑥ 太陽光発電設備を追加する
太陽光発電で得た電力は設計一次エネルギー消費量から差し引けるため、BEIを直接低減できます。
- モデル建物法(小規模版) の場合:100%自家消費の場合のみ評価可能
- モデル建物法・標準入力法 の場合:売電分も含めて評価可能
ただし、設置スペース・構造への影響・初期コスト・ランニングコストの検討が必要です。
対策⑦ 設計の初期段階から省エネ計算を組み込む(根本解決)

上記の対策をすべて試しても改善しきれない場合、根本的な原因は設計の後半で省エネ計算を始めたことにあります。
実務上の推奨フロー:
基本設計段階
└ 概算BEI計算 → 問題なければ実施設計へ
↓(超過しそうな場合)
└ 断熱仕様・設備スペックを見直してから実施設計へ
実施設計段階
└ 詳細BEI計算 → 適合確認 → 適判申請へ
設計初期段階でのBEI確認が、最もコストを抑えた改善方法です。
⚠️ これらの対策は「一般論」です
ここで紹介した7つの対策はあくまで一般的な改善手法です。建物は一棟として同じものはなく、どの対策が最も効果的かは個々の設計内容によって大きく異なります。
- 用途によって、省エネ計算の中で各設備が結果に与える影響度(係数)が異なると考えられる。つまり「どの設備を改善すれば最も効くか」は用途によって変わる
- 採用している設備・断熱仕様によって、そもそも改善の伸びしろが異なる
- 計算の詳細なロジックは非公開部分もあり、実際にどこを変えれば最も効果的かは試算してみないとわからない
手当たり次第に対策を試していくと、時間もコストも消耗します。省エネ専門家に相談することで、その建物にとって最も効率的な改善策を最短で見つけることができます。
7つの対策チェックリスト

| 順番 | 対策内容 | 追加コスト | 難易度 |
|---|---|---|---|
| ① | 設備の実性能値を入力する | なし | 低 |
| ② | 換気設備の補正(天井高さ・高効率モーター)を確認 | なし | 低 |
| ③ | 照明の調光制御・LED設定を精査する | なし〜小 | 低 |
| ④ | 計算対象外の室・設備が混入していないか確認 | なし | 低 |
| ⑤ | 太陽光発電の導入可否を検討 | 大 | 中 |
| ⑥ | 【最終手段】標準入力法への切り替えを検討 | 大(計算・審査費用ほぼ倍) | 高 |
| ⑦ | 次回案件から基本設計段階で概算BEIを確認する | なし | 低 |
どこから手をつけるかわからない場合は、専門家に相談することで最短・最小コストの改善策を見つけられます。
2026年以降はさらに基準が厳しくなる
国土交通省のロードマップによれば、2030年度までに省エネ基準は以下の水準まで引き上げられる予定です。
| 建物規模 | 現行基準 | 2030年目標 |
|---|---|---|
| 中・大規模非住宅 | 用途により BEI 0.75〜0.85 | BEI 0.6〜0.7(ZEBレベル) |
| 小規模非住宅・住宅 | BEI ≦ 1.00 | BEI 0.80 |
出典:脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ(国土交通省・経済産業省・環境省、2021年8月)
今BEI=0.95〜1.00でギリギリ適合している建物は、2030年の基準改定後には確実に不適合になります。今のうちから省エネ性能向上の設計力を身につけることが、今後の実務を守ることになります。

まとめ

BEIが基準値を超えてしまったとき、あわてて大きな設計変更をする前に、まずは次の3ステップを試してください。
STEP1: 設備の実性能値・換気補正・照明設定を見直す(コストゼロ)
STEP2: 計算対象外の室・設備の混入がないか確認する(コストゼロ)
STEP3: それでも解決しない場合は専門家に相談する
建物ごとに最適な改善策は異なります。手当たり次第に試すより、専門家に状況を見てもらう方が結果的に時間もコストも節約できます。標準入力法への切り替えが本当に必要かどうかの判断も、専門家に委ねるのが確実です。


